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三上 光徳

士業が生み出す付加価値の拡大を支援するコンサルタント。公認会計士でもある。 ⇒詳しいプロフィールはこちら
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(本文の最後に動画による解説があります。動画時間:11分42秒)

会計・マーケティング・システム分野をサポートするコンサルタント・三上は、数多くの企業の相談役を務めてきた。

あるとき、ひょんないきさつから経営難にあえぐ寿司屋のコンサルタントとなる。

そこで三上を待ち受けていた事態とは……。

がけっぷちの寿司屋

三上は、昔勤めていた監査法人(*)時代の先輩に紹介された寿司屋に向かった。

(*)公認会計士を中心に組織された会社

心を込めて遂行していた大きなプロジェクトに目処がつき、自分へのご褒美として寿司を堪能したいと思ったのだ。

 

千葉駅にある【銚子一本寿司】の握りは絶品だ。

周辺のクライアントを訪問する際にはよく立ち寄っていたが、忙しさもあり最近はご無沙汰していた。

 

のれんをくぐると、いつもの大将の顔が目に入った。

「らっしゃい」という声には、どこか覇気がない。

 

『久しぶり、大将。いまの時季はなにがおいしいの?』

『ご無沙汰してます。おいしいアジが入ってますよ』

『いいね〜! それとビールもください』

 

金曜日の夕飯時だというのに、客は三上ひとりだ。

三上は、【銚子一本寿司】に対して「繁盛しているうまい店」という印象を持っていただけに、不思議に思った。

そして、つい思ったことを口にした。

 

『今日は空いているね。これから団体でも入るの?』

 

大将は口ごもると、三上から視線を外した。

代わりにお茶を運んできた、おかみさんが言葉をついだ。

 

『最近、お客様の入りが悪くて。近くに回転寿司ができちゃったからかしらね……。三上さんのようにふらっといらしていただける常連さんがいらっしゃらなければ、利益なんてほとんどないようなものなのよ』

『こら、お客様に何の話してんだ!』

 

大将が奥さんの言葉をたしなめる。しかし、その声にも元気はない。

 

『だって、あんた店閉じようかとまで考えているんじゃない。常連さんには聞いてもらった方がいいわよ!』

『大将、いいんですよ。私はここのお寿司が大好きなんです。だから、できれば閉店なんてしてほしくない。
私は多くの会社の経営相談に乗り、ビジネスを軌道に乗せる仕事をしています。もしよろしければ、詳しくお話を伺えませんか?』

 

何よりも大切なのは目標の明確化

『こんな話をして、寿司がまずくなったら申し訳ないんですが……』

 

そう切り出した店の状況は三上が思う以上に深刻だった。

 

売上は年間約2,600万円、仕入原価と経費も合わせて2,600万円かかっている。

うち毎月20万円の年間240万円は奥さんの給料だとはいえ、かなり厳しい。

「利益はほとんど出ていない」という奥さんの発言は本当のようだ。

店が最も盛り上がっていたバブル時期には、売上が6,000万円超あったというから現在はその2分の1にも満たないということだ。

 

『これでは、店を維持していくのも難しいんです……』

 

大将は苦々しく、説明を終えた。

 

『わかりました。では、経営を立て直すとして、どのくらいの売上を目標としましょうか?』

『え……。目標ですか? 維持するので精一杯で、目標なんて考えていなかったな』

『気持ちはわかりますが、目標は大切です。その目標を達成するために、どう具体的に策を練っていくかということになりますからね』

『……わかりました。しいていうならば、全盛期の6,000万円に売上を戻したいですね』

『売上の回復ですね』

 

三上がうなずくと、

 

『あと……!』

 

と奥さんが口を挟んだ。

 

『私は1年に1回旅行に行けるような生活がしたいんです。それに、もう、主人も私も60歳目前で働ける時間は少ない。
子どもたちは自立しているから心配はないんですが、老後静かに暮らしていくくらいのお金はほしいんです』

 

奥さんの勢いに気圧されながらも、

 

『そうですね、売上だけではなく利益もしっかり意識して、1,000万円のお金が手元に残るようにプランを立てていきましょう』

 

と、三上は告げた。

 

トライ&エラーを繰り返せ!

商品ごとの利益率(原価率)の分析

頭を悩ませながら、三上はパソコンに向かっていた。

手を入れるべきポイントはいくつかある。

 

そのなかでまずは、「売りメニュー」を決めることにした。

フォーカスするのは、出前メニューである『ことぶき10貫盛り』だ。

現在は、「特上(2,600円)」・「上(1,900円)」・「並(1,200円)」の三種類で展開している。

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そのクオリティの高さから、【銚子一本寿司】の看板メニューとなっている。

だからこそ、メスを入れることで大きなインパクトを出すだろうと三上は考えたのだ。

 

3日後、再び【銚子一本寿司】を訪れた三上は、ネタごとの原価を仕入伝票から把握していった。

大将もおかみさんも、ネタの仕込みや接客に忙しい。

そんななかで三上は、雑然とした伝票を渡されただけであったが、会計士の知識と経験を生かして店の状況を捉えていった。

 

見えたのが、『ことぶき10貫盛り』の「上」の利益率が高いこと。

 

これは三上にとっては意外だった。

【銚子一本寿司】の「上」はとても美味しく、満足度が非常に高いものだった。

だからこそ、良いネタを使っており、それゆえ利益率は低い(=原価率が高い)のではないかと想像していたのだ。

 

一方で、『ことぶき10貫盛り』の「特上」の利益率が異常に低い

もはや商売というよりはボランティアといったほうがよいほどの価格設定になっている。

 

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つまり、

  • 「上」をたくさん売ることができれば、利益が出て、必然的に手元に残るお金は多くなる。

また、

  • 「特上」をたくさん売ったところで、利益はほとんど出ず、手元に残るお金は実はたいしたことがない。

 

販売価格の設定はその意図を明確に!

『大将、「特上」・「上」・「並」の価格ってどうやって決めたんですか?』

『う~ん、どうだったかなぁ。このあたりの寿司屋の価格相場はなんとなくわかってるから、それに合わせた感じだったと思うけど・・・そういえば、最近は全く関心がなくなってたなぁ』

『「特上」に関しては、もはやほとんど利益が出ていない状態ですよ』

『え、そうなの?
でもよ、特上っつったらうちの最高級品だからな。利益がどうとかよりも、とにかく良いモノを出したいんだよ』

『そうですか』

 

そこで、三上は「特上」と「並」の価格を上げ、相対的に「上」のお得感を際立たせることを考えた。

 

『大将、「特上(3,000円)」・「上(1,900円)」・「並(1,400円)」と価格を変更しませんか?』

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『意図はひとつです。利益率が高い「上」の注文数を増やしたいんです。
そのために、際立っている「並」のお得感を少しおさえて、「特上」は3,000円台に乗せて注文へのハードルを高くしましょう』

『うーん・・・やむを得ないですね』

 

大将の表情は厳しかった。

長年この値段で常連客に寿司を届けてきた大将にとって、大きな決断だったのだろう。

 

***

 

しかし、そんな決断もむなしく、三上の目論見は外れてしまう。『ことぶき10貫盛り』の「上」の売上が思うようにのびなかったのだ。

 

三上は、カウンター越しに大将と向き合った。

 

トライ&エラー&トライ&・・・

『大将、今回の値上げでは期待していたほどの成果は得られませんでした。そこで、さらに値段を変更したいと思っています。
具体的には、『特上(3,500円)』・『上(1,900円)』・『並(1,500円)』としていきます』

 

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『……また値上げをするんですか? そんなことをしたら常連客が離れていきませんか?』

 

大将の目はゆらゆらと自信無げに揺れている。

 

『大将、大切なのはトライ&エラーです。目標を達成するためにやれることはすべてやる。その気概が大切なのです』

『……わかりました』

『大将の寿司へのこだわりと熱意そして実際のお寿司の完成度を考えると、今までがむしろ安すぎたんです。
大将の作品を安く提供することで一時的な満足を与えることができたとしても、それを続けることができなければ商売ではありません。
それよりも、しっかりと適正な利益を出して、それを元手にさらに進化させた大将の作品を提供することでお客様に還元しましょう』

 

大将はマグロを切りながら、小さくうなずいた。

 

トライの成功

トライの成功とそれにともなう新たなフォロー事項の認識

三上は先月分の伝票を眺めながら、目を見張った。

明らかに『ことぶき10貫盛り』の「上」に注文が集中している。

値上げした「特上」の注文数は減っているものの、これは想定の範囲内だ。

 

特筆すべきは、これまで「並」を頼んでいただろうお客が「上」に流れたこと。

「並」と「上」の値段の差が縮まったことで、「そんなに値段が変わらないのであれば、『上』を頼むか」という考えが働いたのだ。

 

一方で、今後のリピート率が下がってしまうという懸念はある。

利益を生み出す元となる売上高は、

『単価』×『数量』×『リピート率』

で構成されるため、その動向は常にチェックが必要なのだ。

 

【銚子一本寿司】の「上」のクオリティであれば大丈夫だろうだと思いつつも、三上は気を引き締めた。

 

販売価格の変更と利益率(原価率)の分析

また、値上げの利点はそれだけではなかった。

  • 「上」に注文が集中していたため、仕入れるネタも「上」に関わるネタに集中させることができた。その結果、ボリュームディスカウントによりキログラムあたりの仕入値が下がった。つまり、原価率が低下し、利益率が上がったのだ。

また、

  • 「特上」は値上げにより注文数は減ったものの、利益を確保できるようになっていた。つまり、売っても売ってもお金が残らない状態から脱し、売れば売るほどお金が残るという当たり前の状態に復活していた。
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※売上(ex.寿司の売り値)から直接的な原価(ex.寿司ネタの仕入金額)を差し引いたものを、「粗利」とか「限界利益」といった呼び方をします。ここからさらに、人件費、家賃、水道光熱費、リース料、各種税金などの費用を差し引いたものが最終的な利益となります。

 

さらに、

  • 以前はすべての寿司ネタに等しく生じていた在庫ロスが、「上」に関わるネタの管理に集中した結果、トータルとして大きく低下した。

 

これには、大将も大喜びたった。

 

『ネタを余らせて処分するとき、毎回悔しい思いをしていたんだ。どんなにうまいものを仕入れても、お客様の口に入らなければ意味がない。そんな無駄なネタを最小限におさえられるのは、大変ありがてぇことだよ』

 

トライ&エラーは今後もつづく

ご機嫌な大将に三上は、「ランチメニュー」についても話をした。

勝手が分かった大将はむしろ積極的に提案をしてきた。

利益率分析についてちょっとアドバイスをしたものの、あとは大将とおかみさんでトライ&エラーを進めていきそうだ。

 

動画によるポイント解説

ポイント部分を動画で解説しました(動画時間:11分42秒)。

 

第2話:『固定費の削減方法/内容を把握し理解することが第一歩』へ続く→

第3話:『ホームページ(WEB)を利用した集客方法/親近感・専門性・道作りを意識する』へ続く→

 

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